けどをひやそうと思《おも》って、水がめの上に顔《かお》を出《だ》しますと、陰《かげ》から蜂《はち》がぶんととび出《だ》して、猿《さる》の目の上をいやというほど刺《さ》しました。
「いたい。」
 と猿《さる》はさけんで、またあわてておもてへ逃《に》げ出《だ》しました。逃《に》げ出《だ》すひょうしに、敷居《しきい》の上に寝《ね》ていた昆布《こんぶ》でつるりとすべって、腹《はら》んばいに倒《たお》れました。その上に臼《うす》が、どさりところげ落《お》ちて、うんとこしょと重《おも》しになってしまいました。
 猿《さる》は赤《あか》い顔《かお》をありったけ赤《あか》くして苦《くる》しがって、うんうんうなりながら、手足《てあし》をばたばたやっていました。
 そのとき、お庭《にわ》の隅《すみ》から子がにがちょろちょろはい出《だ》してきて、
「親《おや》のかたき、覚《おぼ》えたか。」
 と言《い》いながら、はさみをふり上《あ》げて、猿《さる》の首《くび》をちょきんとはさみではさんでしまいました。



底本:「日本の神話と十大昔話」講談社学術文庫、講談社
   1983(昭和58)年5月10日第1刷発
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