い》いますと、みんなはさんせいして、いちばんに栗《くり》が、
「わたしはここにかくれよう。」
と言《い》って、炉《ろ》の灰《はい》の中にもぐり込《こ》みました。
「わたしはここだよ。」
と言《い》いながら、蜂《はち》は水がめの陰《かげ》にかくれました。
「わたしはここさ。」
と、昆布《こんぶ》は敷居《しきい》の上に長々《ながなが》と寝《ね》そべりました。
「じゃあ、わたしはここに乗《の》っていよう。」
と臼《うす》は言《い》って、かもいの上にはい上《あ》がりました。
夕方《ゆうがた》になって、猿《さる》はくたびれて、外《そと》から帰《かえ》って来《き》ました。そして炉《ろ》ばたにどっかり座《すわ》り込《こ》んで、
「ああ、のどが渇《かわ》いた。」
と言《い》いながら、いきなりやかんに手《て》をかけますと、灰《はい》の中にかくれていた栗《くり》がぽんとはね出《だ》して、とび上《あ》がって、猿《さる》の鼻面《はなづら》を力《ちから》まかせにけつけました。
「あつい。」
と猿《さる》はさけんであわてて鼻面《はなづら》をおさえて、台所《だいどころ》へかけ出《だ》しました。そしてやけどをひやそうと思《おも》って、水がめの上に顔《かお》を出《だ》しますと、陰《かげ》から蜂《はち》がぶんととび出《だ》して、猿《さる》の目の上をいやというほど刺《さ》しました。
「いたい。」
と猿《さる》はさけんで、またあわてておもてへ逃《に》げ出《だ》しました。逃《に》げ出《だ》すひょうしに、敷居《しきい》の上に寝《ね》ていた昆布《こんぶ》でつるりとすべって、腹《はら》んばいに倒《たお》れました。その上に臼《うす》が、どさりところげ落《お》ちて、うんとこしょと重《おも》しになってしまいました。
猿《さる》は赤《あか》い顔《かお》をありったけ赤《あか》くして苦《くる》しがって、うんうんうなりながら、手足《てあし》をばたばたやっていました。
そのとき、お庭《にわ》の隅《すみ》から子がにがちょろちょろはい出《だ》してきて、
「親《おや》のかたき、覚《おぼ》えたか。」
と言《い》いながら、はさみをふり上《あ》げて、猿《さる》の首《くび》をちょきんとはさみではさんでしまいました。
底本:「日本の神話と十大昔話」講談社学術文庫、講談社
1983(昭和58)年5月10日第1刷発
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