《おうらい》に倒《たお》れかかりました。侍《さむらい》たちはびっくりして、どこかに水《みず》はないかとあわてて探《さが》し回《まわ》りましたが、そこらには井戸《いど》もなし、流《なが》れもありませんでした。そこへ若者《わかもの》がのそのそ通《とお》りかかりますと、みんなは、
「もし、もし、お前《まえ》さん、この近所《きんじょ》に水《みず》の出《で》る所《ところ》を知《し》りませんか。」
とたずねました。若者《わかもの》は、
「そうですね。まあこの辺《へん》、五|町《ちょう》のうちには清水《しみず》のわいている所《ところ》はないでしょうが、いったいどうなさったのです。」
と聞《き》きました。
「ほら、あのとおり歩《ある》きくたびれて、暑《あつ》さに当《あ》たって、水《みず》をほしがって死《し》にそうになっている人があるのです。」
「おやおや、それはお気《き》の毒《どく》ですね。ではさしあたりこれでも召《め》し上《あ》がってはいかがでしょう。」
若者《わかもの》はそういって、みかんを三つとも出《だ》してやりました。みんなは大《たい》そうよろこんで、さっそくみかんをむいて、病人《びょう
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