気《き》の毒《どく》ですね。ではその代《か》わりに、これを上《あ》げましょう。のどがかわいたでしょう、お上《あ》がりといって、上《あ》げておくれ。」
 といって、大きな、いいにおいのするみかんを三つ、りっぱな紙《かみ》にのせて、お供《とも》の侍《さむらい》に渡《わた》しました。
 若者《わかもの》はそれをもらって、
「おやおや、一|本《ぽん》のわらが大きなみかん三つになった。」
 とよろこびながら、それを木の枝《えだ》にむすびつけて、肩《かた》にかついでいきました。

     三

 するとまた向《む》こうから一つ、女車《おんなぐるま》が来《き》ました。こんどは前《まえ》のよりもいっそう身分《みぶん》の高《たか》い人が、おしのびでおまいりに来《き》たものとみえて、大《おお》ぜいの侍《さむらい》や、召使《めしつかい》の女などがお供《とも》についていました。するとそのお供《とも》の女の一人《ひとり》が、すっかり歩《ある》きくたびれて、
「もう一足《ひとあし》も歩《ある》けません。ああ、のどがかわく。水《みず》が飲《の》みたい。」
 といいながら、真《ま》っ青《さお》な顔《かお》をして往来
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