た。
「そうですか。では馬《うま》をはいけんしよう。どれどれ。」
 と向《む》こうの男はいいながら、馬《うま》に乗《の》ってみて、
「どうもこれはすばらしい馬《うま》だ。取《と》りかえっこをしてもけっして惜《お》しくはない。」
 といって、近《ちか》くにある稲田《いなだ》を三|町《ちょう》と、お米《こめ》を少《すこ》しくれました。そして、
「ついでにこの家《いえ》もお前《まえ》さんにあずけるから、遠慮《えんりょ》なく住《す》まって下《くだ》さい。わたしたちは当分《とうぶん》遠方《えんぽう》へ行って暮《く》らさなければなりません。まあ、寿命《じゅみょう》があって、また帰《かえ》って来《く》ることがあったら、そのとき返《かえ》してもらえばいい。また向《む》こうで亡《な》くなってしまったら、そのまま、この家《いえ》をお前《まえ》さんのものにして下《くだ》さい。べつに子供《こども》もないことだから、後《あと》でぐずぐずいうものはだれもないのです。」
 といって、家《いえ》まであずけて立《た》って行きました。
 若者《わかもの》はとんだ拾《ひろ》い物《もの》をしたと思《おも》って、いわれるままに
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