しか若者《わかもの》の気《き》がかわって、馬《うま》の死骸《しがい》なんぞと取《と》りかえては損《そん》だと考《かんが》えて、布《ぬの》を取《と》り返《かえ》しにでも来《く》ると大《たい》へんだ。」と思《おも》って、後《あと》をも見返《みかえ》らずに、さっさと駆《か》けて行ってしまいました。

     五

 若者《わかもの》は、下男《げなん》の姿《すがた》が遠《とお》くに見《み》えなくなるまで見送《みおく》りました。それからそこの清水《しみず》で手《て》を洗《あら》いきよめて、長谷寺《はせでら》の観音《かんのん》さまの方《ほう》に向《む》いて手を合《あ》わせながら、
「どうぞこの馬《うま》をもとのとおりに生《い》かして下《くだ》さいまし。」
 と、目《め》をつぶって一生懸命《いっしょうけんめい》にお祈《いの》りをしました。
 そうすると死《し》んでいた馬《うま》がふと目をあいて、やがてむくむく起《お》き上《あ》がろうとしました。若者《わかもの》は大《たい》そうよろこんで、さっそく馬《うま》の体《からだ》に手《て》をかけて起《お》こしてやりました。それから水《みず》を飲《の》ませたり
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