乗《の》ってしおしおと帰《かえ》っていきました。その後《あと》から、家来《けらい》たちが、馬《うま》のくらやくつわをはずして、ついていきました。けれどいくらいい馬《うま》でも、死《し》んだ馬《うま》をかついでいくことはできないので、それには下男《げなん》を一人《ひとり》後《あと》に残《のこ》して、死《し》んだ馬《うま》の始末《しまつ》をさせることになりました。さっきからこの様子《ようす》を見《み》ていた若者《わかもの》は、「昨日《きのう》は一|本《ぽん》のわらがみかん三つになり、三つのみかんが布《ぬの》三|反《たん》になった。こんどは三|反《たん》の布《ぬの》が馬《うま》一|匹《ぴき》になるかも知《し》れない。」と思《おも》いながら、下男《げなん》のそばに近《ちか》づいて、
「もし、もし、その馬《うま》はどうしたのです。大《たい》そうりっぱな、いい馬《うま》ではありませんか。」
といいました。下男《げなん》は、
「ええ、これは大金《たいきん》を出《だ》して、はるばる陸奥国《むつのくに》から取《と》り寄《よ》せた馬《うま》で、これまでもいろんな人がほしがって、いくらでも金《かね》は出《だ》すから、ゆずってくれないかと、ずいぶんうるさく申《もう》し込《こ》んできたものですが、殿《との》さまが惜《お》しがって、手放《てばな》そうともなさらなかったのです。それがひょんなことで死《し》んでしまって、元《もと》も子《こ》もありません。まあ、皮《かわ》でもはいで、わたしがもらって、売《う》ろうかと思うのですが、旅《たび》の途中《とちゅう》ではそれもできないし、そうかといってこのまま往来《おうらい》に捨《す》てておくこともできないので、どうしたものか、困《こま》っているところです。」
といいました。若者《わかもの》は、
「それはお気《き》の毒《どく》ですね。では馬《うま》はわたしが引《ひ》き受《う》けて、何《なん》とか始末《しまつ》して上《あ》げますから、わたしにゆずって下《くだ》さいませんか。その代《か》わりにこれを上《あ》げましょう。」
といって、白《しろ》い布《ぬの》を一|反《たん》出《だ》しました。下男《げなん》は死《し》んだ馬《うま》が布《ぬの》一|反《たん》になれば、とんだもうけものだと思《おも》って、さっそく馬《うま》と取《と》りかえっこをしました。その上、「も
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