みばん》なんにも食《た》べないで、おなかのへっていることを思《おも》い出《だ》しました。そこでさっそく打《う》ち出《で》の小槌《こづち》を振《ふ》って、そこへ食《た》べきれないほどのごちそうを振《ふ》り出《だ》して、お姫《ひめ》さまと二人《ふたり》で仲《なか》よく食《た》べました。
 ごちそうを食《た》べてしまうと、こんどは金銀《きんぎん》、さんご、るり、めのうと、いろいろの宝《たから》を打《う》ち出《だ》しました。そしていちばんおしまいに、大きな舟《ふね》を打《う》ち出《だ》して、宝物《たからもの》を残《のこ》らずそれに積《つ》み込《こ》んで、お姫《ひめ》さまと二人《ふたり》、また舟《ふね》に乗《の》って、間《ま》もなく日本《にっぽん》の国《くに》へ帰《かえ》って来《き》ました。

     四

 一寸法師《いっすんぼうし》が宰相殿《さいしょうどの》のお姫《ひめ》さまを連《つ》れて、鬼《おに》が島《しま》から宝物《たからもの》を取《と》って、めでたく帰《かえ》って来《き》たといううわさが、すぐと世間《せけん》にひろまって、やがて天子《てんし》さまのお耳《みみ》にまで入《はい》りました。
 そこで天子《てんし》さまは、ある時《とき》、一寸法師《いっすんぼうし》をお召《め》しになってごらんになりますと、なるほど気高《けだか》い様子《ようす》をしたりっぱな若者《わかもの》でしたから、これはただ者《もの》ではあるまいと、よくよく先祖《せんぞ》をお調《しら》べさせになりました。それで一寸法師《いっすんぼうし》のおじいさんが、堀河《ほりかわ》の中納言《ちゅうなごん》というえらい人で、むじつの罪《つみ》で田舎《いなか》に追《お》われて出来《でき》た子が、一寸法師《いっすんぼうし》のおとうさんで、それからおかあさんという人も、やはりもとは伏見《ふしみ》の少将《しょうしょう》といった、これもえらい人の種《たね》だということが分《わ》かりました。
 天子《てんし》さまはさっそく、一寸法師《いっすんぼうし》に位《くらい》をおさずけになって、堀河《ほりかわ》の少将《しょうしょう》とお呼《よ》ばせになりました。堀河《ほりかわ》の少将《しょうしょう》は、改《あらた》めて三条宰相殿《さんじょうさいしょうどの》のお許《ゆる》しをうけて、お姫《ひめ》さまをお嫁《よめ》さんにもらいました。そして摂津国《せっつのくに》の難波《なにわ》から、おとうさんやおかあさんを呼《よ》び寄《よ》せて、うち中《じゅう》がみんな集《あつ》まって、楽《たの》しく世《よ》の中を送《おく》りました。



底本:「日本の古典童話」講談社学術文庫、講談社
   1983(昭和58)年6月10日第1刷発行
入力:鈴木厚司
校正:林 幸雄
2006年7月28日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全5ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
楠山 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング