てありったけの大きな声《こえ》を振《ふ》り立《た》てて、
「これこれ、このお方《かた》をだれだと思《おも》う。三条《さんじょう》の宰相殿《さいしょうどの》の姫君《ひめぎみ》だぞ。うっかり失礼《しつれい》なまねをすると、この一寸法師《いっすんぼうし》が承知《しょうち》しないぞ。」
とどなりました。二|匹《ひき》の鬼《おに》はこの声《こえ》に驚《おどろ》いて、よく見《み》ますと、足《あし》もとに豆《まめ》っ粒《つぶ》のような小男《こおとこ》が、いばり返《かえ》って、つッ立《た》っていました。鬼《おに》はからからと笑《わら》いました。
「何《なん》だ。こんな豆《まめ》っ粒《つぶ》か。めんどうくさい、のんでしまえ。」
というが早《はや》いか、一|匹《ぴき》の鬼《おに》は、一寸法師《いっすんぼうし》をつまみ上《あ》げて、ぱっくり一口《ひとくち》にのんでしまいました。一寸法師《いっすんぼうし》は刀《かたな》を持《も》ったまま、するすると鬼《おに》のおなかの中へすべり込《こ》んでいきました。入《はい》るとおなかの中をやたらにかけずり回《まわ》りながら、ちくりちくりと刀《かたな》でついて回《まわ》りました。鬼《おに》は苦《くる》しがって、
「あッ、いたい。あッ、いたい。こりゃたまらん。」
と地《じ》びたをころげ回《まわ》りました。そして苦《くる》しまぎれにかっと息《いき》をするはずみに、一寸法師《いっすんぼうし》はまたぴょこりと口《くち》から外《そと》へ飛《と》び出《だ》しました。そして刀《かたな》を振《ふ》り上《あ》げて、また鬼《おに》に切《き》ってかかりました。するともう一|匹《ぴき》の鬼《おに》が、
「生意気《なまいき》なちびだ。」
といって、また一寸法師《いっすんぼうし》をつかまえて、あんぐりのんでしまいました。のまれながら一寸法師《いっすんぼうし》は、こんどはすばやく躍《おど》り上《あ》がって、のどの穴《あな》から鼻《はな》の穴《あな》へ抜けて、それから眼《め》のうしろへはい上《あ》がって、さんざん鬼《おに》の目玉《めだま》をつッつきました。すると鬼《おに》は思《おも》わず、
「いたい。」
とさけんで、飛《と》び上《あ》がったはずみに、一寸法師《いっすんぼうし》は、目《め》の中からひょいと地《じ》びたに飛《と》び下《お》りました。鬼《おに》は目玉《めだま》が抜《ぬ》け出《だ》したかと思《おも》って、びっくりして、
「大《たい》へん、大《たい》へん。」
と、後《あと》をも見《み》ずに逃《に》げ出《だ》しました。するともう一|匹《ぴき》の鬼《おに》も、
「こりやかなわん。逃《に》げろ、逃《に》げろ。」
と後《あと》を追《お》って行きました。
「はッは、弱虫《よわむし》め。」
と、一寸法師《いっすんぼうし》は、逃《に》げて行く鬼《おに》のうしろ姿《すがた》を気味《きみ》よさそうにながめて、
「やれやれ、とんだことでした。」
といいながら、そこに倒《たお》れているお姫《ひめ》さまを抱《だ》き起《お》こして、しんせつに介抱《かいほう》しました。お姫《ひめ》さまがすっかり正気《しょうき》がついて、立《た》ち上《あ》がろうとしますと、すそからころころと小《ちい》さな槌《つち》がころげ落《お》ちました。
「おや、ここにこんなものが。」
と、お姫《ひめ》さまがそれを拾《ひろ》ってお見《み》せになりました。
一寸法師《いっすんぼうし》はその槌《つち》を手に持《も》って、
「これは鬼《おに》の忘《わす》れて行った打《う》ち出《で》の小槌《こづち》です。これを振《ふ》れば、何《なん》でもほしいと思《おも》うものが出《で》てきます。ごらんなさい、今《いま》ここでわたしの背《せい》を打《う》ち出《だ》してお目にかけますから。」
こういって、一寸法師《いっすんぼうし》は、打《う》ち出《で》の小槌《こづち》を振《ふ》り上《あ》げて、
「一寸法師《いっすんぼうし》よ、大きくなれ。あたり前《まえ》の背《せい》になれ。」
といいながら、一|度《ど》振《ふ》りますと背《せい》が一|尺《しゃく》のび、二|度《ど》振《ふ》りますと三|尺《じゃく》のび、三|度《ど》めには六|尺《しゃく》に近《ちか》いりっぱな大男《おおおとこ》になりました。
お姫《ひめ》さまはそのたんびに目《め》をまるくして、
「まあ、まあ。」
といっておいでになりました。
一寸法師《いっすんぼうし》は大きくなったので、もううれしくってうれしくって、立《た》ったりしゃがんだり、うしろを振《ふ》り向《む》いたり、前《まえ》を見《み》たり、自分《じぶん》で自分《じぶん》の体《からだ》をめずらしそうにながめていましたが、一通《ひととお》りながめてしまうと、急《きゅう》に三日三晩《みっか
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