けになるにも、
「一寸法師《いっすんぼうし》や。一寸法師《いっすんぼうし》や。」
といって、お供《とも》にお連《つ》れになりました。だんだん仲《なか》がよくなるうち、何《なん》といっても二人《ふたり》とも子供《こども》だものですから、いつかお友達《ともだち》のようになって、時々《ときどき》はけんかをしたり、いたずらをし合《あ》って、泣《な》いたり笑《わら》ったりすることもありました。ある時《とき》またけんかをして、一寸法師《いっすんぼうし》が負《ま》けました。くやしまぎれに一寸法師《いっすんぼうし》は、そっとお姫《ひめ》さまが昼寝《ひるね》をしておいでになるすきをうかがって、自分《じぶん》が殿《との》さまから頂《いただ》いたお菓子《かし》を残《のこ》らず食《た》べてしまって、残《のこ》った粉《こな》をお姫《ひめ》さまの眠《ねむ》っている口《くち》のはたになすりつけておきました。そして自分《じぶん》はからっぽになったお菓子《かし》の袋《ふくろ》を手《て》に持《も》って、お庭《にわ》の真《ま》ん中《なか》に出て、わざと大きな声《こえ》でおいおい泣《な》いておりました。その声《こえ》を聞《き》きつけて、殿《との》さまが縁側《えんがわ》へ出ていらしって、
「一寸法師《いっすんぼうし》、どうした。どうした。」
とお聞《き》きになりました。
すると一寸法師《いっすんぼうし》は、さも悲《かな》しそうな声《こえ》をして、
「お姫《ひめ》さまがわたくしをぶって、殿《との》さまから頂《いただ》いたお菓子《かし》をみんな取《と》って食《た》べておしまいになりました。」
といいました。
殿《との》さまはびっくりして、お姫《ひめ》さまのお部屋《へや》へ行ってごらんになりますと、お姫《ひめ》さまは口《くち》のはたにいっぱいお菓子《かし》の粉《こな》をつけて、眠《ねむ》っておいでになりました。
殿《との》さまは大《たい》そうおおこりになって、おかあさんを呼《よ》んで、
「何《なん》だって、姫《ひめ》にあんな行儀《ぎょうぎ》の悪《わる》いまねをさせるのだ。」
ときびしくおしかりになりました。するとこのおかあさんは、少《すこ》しいじの悪《わる》い人だったものですから、お姫《ひめ》さまのために自分《じぶん》がしかられたのを大《たい》そうくやしがりました。そしてくやしまぎれに、ありもしない
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