ぼうし》が、
「ごめん下《くだ》さい。」
 とどなった時《とき》、ちょうどどこかへおでましになるつもりで、玄関《げんかん》までおいでになった宰相殿《さいしょうどの》が、その声《こえ》を聞《き》きつけて、出てごらんになりました。しかしだれも玄関《げんかん》には居《い》ませんでした。ふしぎに思《おも》ってそこらをお見回《みまわ》しになりますと、靴《くつ》ぬぎにそろえてある足駄《あしだ》の陰《かげ》に、豆粒《まめつぶ》のような男《おとこ》が一人《ひとり》、反《そ》り身《み》になってつっ立《た》っていました。宰相殿《さいしょうどの》はびっくりして、
「お前《まえ》か、今《いま》呼《よ》んだのは。」
「はい、わたくしでございます。」
「お前《まえ》は何者《なにもの》だ。」
「難波《なにわ》からまいりました一寸法師《いっすんぼうし》でございます。」
「なるほど一寸法師《いっすんぼうし》に違《ちが》いない。それでわたしの屋敷《やしき》に来《き》たのは何《なん》の用《よう》だ。」
「わたくしは出世《しゅっせ》がしたいと思《おも》って、京都《きょうと》へわざわざ上《のぼ》ってまいりました。どうぞ一生懸命《いっしょうけんめい》働《はたら》きますから、お屋敷《やしき》でお使《つか》いなさって下《くだ》さいまし。」
 一寸法師《いっすんぼうし》はこういって、ぴょこんとおじぎをしました。宰相殿《さいしょうどの》は笑《わら》いながら、
「おもしろい小僧《こぞう》だ。よしよし使《つか》ってやろう。」
 とおっしゃって、そのままお屋敷《やしき》に置《お》いておやりになりました。

     三

 一寸法師《いっすんぼうし》は宰相殿《さいしょうどの》のお屋敷《やしき》に使《つか》われるようになってから、体《からだ》こそ小《ちい》さくても、まめまめしくよく働《はたら》きました。大《たい》へん利口《りこう》で、気《き》が利《き》いているものですから、みんなから、
「一寸法師《いっすんぼうし》、一寸法師《いっすんぼうし》。」
 といって、かわいがられました。
 このお屋敷《やしき》に十三になるかわいらしいお姫《ひめ》さまがありました。一寸法師《いっすんぼうし》はこのお姫《ひめ》さまが大好《だいす》きでした。お姫《ひめ》さまも一寸法師《いっすんぼうし》が大《たい》そうお気《き》に入《い》りで、どこへお出か
前へ 次へ
全10ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
楠山 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング