おもしろそうにながめながら、そのわけをくわしく話しだしました。それをかいつまんでいうと、まあこんなものでした。
「ここからそうとおくはない所に、おそろしい鬼の大男が、すみかにしている、お城のような家がある。じつはその鬼が、むかし、そのお城に住んでいたお前のおとうさんをころして、城といっしょに、そのもっていたおたからのこらずとってしまったものだから、お前のうちは、すっかり貧乏《びんぼう》になってしまったのさ。そうしてお前も、赤ちゃんのときから、かわいそうに、お前のおかあさんのふところにだかれたまま、下界《げかい》におちぶれて、なさけないくらしをするようになったのだよ。だから、もういちど、そのたからをとりかえして、わるいその鬼を、ひどいめにあわしてやるのが、お前のやくめなのだよ。」
こういうふうにいいきかされると、ぐうたらなジャックのこころも、ぴんと張《は》ってきました。知らないおとうさんのことが、なつかしくなって、どうしてもこの鬼をこらしめて、かすめられたたからを、とりかえさなくてはならないとおもいました。そうおもって、とてもいさましい気になって、おなかのすいていることも、くたびれていることも、きれいにわすれてしまいました。そこで、妖女にお礼をいってわかれますと、さっそく、鬼の住んでいるお城にむかって、いそいで行きました。
やがて、お日さまが西にしずむころ、ジャックは、なるほどお城のように大きな家の前に来ました。
まず、とんとんと門をたたくと、なかから、目のひとつしかない、鬼のお上《かみ》さんが出て来ました。きみのわるい顔に似合《にあ》わず、鬼のお上さんは、ジャックのひもじそうなようすをみて、かわいそうにおもいました。それで、さもこまったように首をふって、
「いけない、いけない。きのどくだけれど、とめてあげることはできないよ。ここは、人くい鬼のうちだから、みつかると、晩のごはんのかわりに、すぐたべられてしまうからね。」といいました。
「どうか、おばさん、知れないようにしてとめてくださいよ。ぼく、もうくたびれて、ひと足もあるけないんです。」と、たのむように、ジャックはいいました。
「しかたのない子だね。じゃあ今夜だけとめてあげるから、朝になったら、すぐおかえりよ。」
こういっているさいちゅう、にわかにずしん、ずしん、地ひびきするほど大きな足音がきこえて来ました。
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