それは主人の人くい鬼が、もう、そとからかえって来たのです。鬼のお上さんは、大あわてにあわてて、ジャックを、だんろの中にかくしてしまいました。
 鬼は、へやの中にはいると、いきなり、ふうと鼻をならしながら、たれだってびっくりしてふるえ上がるような大ごえで、

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「フン、フン、フン、
イギリス人の香《か》がするぞ。
生きていようが死んでよが、
骨ごとひいてパンにしょぞ。」
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と、いいました。すると、お上さんが、
「いいえ、それはあなたが、つかまえて、土の牢《ろう》に入れてあるひとたちの、においでしょう。」といいました。
 けれど鬼の大男は、まだきょろきょろそこらを見まわして、鼻をくんくんやっていました。でも、どうしても、ジャックをみつけることができませんでした。
 とうとうあきらめて、鬼は、椅子《いす》の上に腰《こし》をおろしました。そしてがつがつ、がぶがぶ、たべたりのんだりしはじめました。そっとジャックがのぞいてみていますと、それはあとからあとから、いつおしまいになるかとおもうほどかっこむので、ジャックは、目ばかりまるくしていました。さて、たらふくたべてのんだあげく、お上さんに、
「おい、にわとりをつれてこい。」といいつけました。
 それは、ふしぎなめんどりでした。テーブルの上にのせて、鬼が、
「生め。」といいますと、すぐ金のたまごをひとつ生みました。鬼がまた、
「生め。」といいますと、またひとつ、金のたまごを生みました。
「やあ、ずいぶん、とくなにわとりだな。おとうさんのおたからというのは、きっとこれにちがいない。」と、下からそっとながめながら、ジャックはそうおもいました。
 鬼はおもしろがって、あとからあとから、いくつもいくつも、金のたまごを生ましているうち、おなかがはってねむたくなったとみえて、ぐすぐすと壁《かべ》のうごくほどすごい大いびきを立てながら、ぐっすりねこんでしまいました。
 ジャックは、鬼のすっかりねむったのを見すまして、ちょうど鬼のお上さんが、台所へ行っているのをさいわい、そっとだんろの中からぬけだしました。そして、テーブルの上のめんどりを、ちょろり小わきにかかえて、すたこらお城を出て行きました。
 それから、どんどん、どんどん、かけだして行って、豆の木のはしごのかかっている所までくると、するするとつ
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