見まわしてみて、これならいっそ、ものおきのくらいかたすみにほうり出されていたほうが、よかったとおもいました。それからつづいて森のなかにいたときの、わかいじぶんのすがたを、目にうかべました。楽しかったクリスマスの前の晩のことを、おもいだしました。でっくりもっくりさんのおはなしを、うれしそうにきいていた、小ねずみたちのことをおもいだしました。
「もうだめだ、もうだめだ。」と、かわいそうなもみの木はためいきをつきました。「たのしめるときに、たのしんでおけばよかった。もうだめだ。もうだめだ。」
 やがて、下男《げなん》が来て、もみの木を小さくおって、ひとたばの薪《まき》につかねてしまいました。それから大きなゆわかしがまの下へつっこまれて、かっかと赤くもえました。もみの木はそのとき、ふかいためいきをつきました。そのためいきは、パチパチ弾丸《だんがん》のはじける音のようでした。ですから、そこらであそんでいるこどもたちは、みんなかけてきて、火のなかをのぞきこみながら、
「パチ、パチ、パチ。」と、まねをしました。
 もみの木は、あいかわらず、ふかいためいきのかわりに、パチ、パチいいながら、森のなかの、
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