ありませんでした。
「さあ、いよいよこれから、わたしは生きるのだぞ。」
と、うれしそうな声をだして、もみの木はおもいきり、枝《えだ》をいっぱいのばしました。けれど、やれやれかわいそうに、その枝のさきは、がさがさに乾《ひ》からびて、黄《き》いろくなっていました。そして、じぶんはにわのすみっこ[#「すみっこ」は底本では「すみこっ」]で、雑草《ざっそう》や、いばらのなかに、ころがされていました。金紙《きんがみ》の星はまだあたまのてっぺんについていました。そしてその星は、あかるいお日さまの光で、きらきらかがやいていました。
 ところで、そのとき、にわには、あのクリスマスの晩、この木のまわりをとびまわった、けんきのいいこどもたちが、あそんでいました。するとひとり、いちばんちいさい子がかけてきて、いきなり金の星を、もぎとってしまいました。
「ごらんよ。きたない、ふるいもみの木にくっついていたんだよ。」
 その子はそうさけびながら、枝をふんづけましたから、枝はくつの下で、ぽきぽき音を立てました。
 もみの木は、目のさめるようにうつくしい、花ぞののなかの花をみました。そしてみすぼらしいじぶんのすがたを
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