ひ人間には高尚《かうしやう》な心の智慧といふものがあつて、それによつて胸のなかが光と喜びにあふれるとき、このいんきくさい「運命」をのり越えて精神の自由を得て、國のため、家のため、または自分の一身のためにも、安心してりつぱな行ひや苦しいつとめに、命をゆだねるだけの勇氣をふるひおこす力がそなはつてゐる、だからいい人間になるには、つい目の前にころがつてゐるけば/\しい、いやしい、物の慾にとらはれず、だれも心を高く大きく持つて、いはば神樣に近い智慧をやしなふ工夫がなくてはならない――まづかういふのが、すこしむづかしいやうですが、この「青い烏」の二つの物語を讀めば、しぜんに、おもしろく、わかつてくる作者のをしへです。
メーテルリンク氏は、西暦で一八六二年八月の生れですから、今年はもう八十歳の老人です。ベルギー帝國では第一の國民詩人とたふとばれて、侯爵の位までもらつた人ですが、こんどの大戰で、國をのがれて、外國へ浪々《らう/\》の旅をつづけてゐます。でも、そんな老年になつてさういふ目にあふのは氣の毒だ、といつて同情する人があつたとしても、この老詩人は、にこ/\笑つていふでせう、「なあに、青い鳥は
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