ねずみの嫁入り
楠山正雄
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)ある家《いえ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)まっ四|角《かく》
−−
むかし、むかし、ある家《いえ》のお倉《くら》の中に、お米《こめ》を持《も》って、麦《むぎ》を持《も》って、粟《あわ》を持《も》って、豆《まめ》を持《も》って、たいそうゆたかに暮《く》らしているお金《かね》持《も》ちのねずみが住《す》んでおりました。
子供《こども》がないので神《かみ》さまにお願《ねが》いしますと、やっと女《おんな》の子が生《う》まれました。その子はずんずん大きくなって、かがやくほど美《うつく》しくなって、それはねずみのお国《くに》でだれ一人《ひとり》くらべるもののない日本一《にほんいち》のいい娘《むすめ》になりました。
こうなると、もうねずみの仲間《なかま》には見《み》わたしたところ、とても娘《むすめ》のお婿《むこ》さんにするような者《もの》はありませんでした。ねずみのおとうさんとおかあさんは、
「うちの娘《むすめ》は日本一《にほんいち》の娘《むすめ》なのだから、何《なん》でも日本一《にほんいち》のお婿《むこ》さんをもらわなければならない。」
と言《い》いました。
そこでこの世《よ》の中でだれがいちばんえらいかというと、それは高《たか》い高《たか》い空《そら》の上から世界中《せかいじゅう》をあかるく照《て》らしておいでになるお日さまの外《ほか》にはありませんでした。そこでおとうさんはおかあさんと娘《むすめ》を連《つ》れて、天《てん》へ上《のぼ》っていきました。そしてお日さまに、
「お日さま、お日さま、あなたは世《よ》の中でいちばんえらいお方《かた》です。どうぞわたくしの娘《むすめ》をお嫁《よめ》にもらって下《くだ》さいまし。」
といって、ていねいにおじぎをしました。
するとお日さまはにこにこなさりながら、
「それはありがたいが、世《よ》の中にはわたしよりもっとえらいものがあるよ。」
とおっしゃいました。
おとうさんはびっくりしました。
「まあ、あなたよりもえらい方《かた》があるのですか。それはどなたでございますか。」
「それは雲《くも》さ。わたしがいくら空《そら》でかんかん照《て》っていようと思《おも》っても、雲《くも》が出てくるともうだめになるのだ
次へ
全3ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
楠山 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング