からね。」
「なるほど。」
おとうさんはそこで、こんどは雲《くも》の所《ところ》へ出かけました。
「雲《くも》さん、雲《くも》さん、あなたは世《よ》の中でいちばんえらいお方《かた》です。どうぞわたくしの娘《むすめ》をお嫁《よめ》にもらって下《くだ》さいまし。」
「それはありがたいが、世《よ》の中にはわたしよりもっとえらいものがあるよ。」
おとうさんはびっくりしました。
「まあ、あなたよりもえらい方《かた》があるのですか。それはどなたでございますか。」
「それは風《かぜ》さ。風《かぜ》に吹《ふ》きとばされてはわたしもかなわないよ。」
「なるほど。」
おとうさんはそこで、こんどは風《かぜ》の所《ところ》へ出かけていきました。
「風《かぜ》さん、風《かぜ》さん、あなたは世《よ》の中でいちばんえらいお方《かた》です。どうぞわたくしの娘《むすめ》をお嫁《よめ》にもらって下《くだ》さいまし。」
「それはありがたいが、世《よ》の中にはわたしよりもっとえらいものがあるよ。」
おとうさんはびっくりしました。
「まあ、あなたよりもえらい方《かた》があるのですか。それはどなたでございますか。」
「それは、壁《かべ》さ。壁《かべ》ばかりはわたしの力《ちから》でもとても、吹《ふ》きとばすことはできないからね。」
「なるほど。」
おとうさんはそこでまた、のこのこ壁《かべ》の所《ところ》へ出かけていきました。
「壁《かべ》さん、壁《かべ》さん、あなたは世《よ》の中でいちばんえらいお方《かた》です。どうぞうちの娘《むすめ》をお嫁《よめ》にもらって下《くだ》さいまし。」
「それはありがたいが、世《よ》の中にはわたしよりもっとえらいものがあるよ。」
おとうさんはびっくりしました。
「まあ、あなたよりもえらい方《かた》があるのですか。それはどなたでございますか。」
「それはだれでもない、そういうねずみさんさ。わたしがいくらまっ四|角《かく》な顔《かお》をして、固《かた》くなって、がんばっていても、ねずみさんはへいきでわたしの体《からだ》を食《く》い破《やぶ》って、穴《あな》をあけて通《とお》り抜《ぬ》けていくじゃないか。だからわたしはどうしてもねずみさんにはかなわないよ。」
「なるほど。」
とねずみのおとうさんは、こんどこそほんとうにしんから感心《かんしん》したように、ぽんと手《て》を打《
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