は、それから石段をのぼって、お社《やしろ》におさい[#「さい」に傍点]銭《せん》をあげて、ていねいに神さまにおじぎをして、またいそいで、石段をおりて帰って行きました。
ところで、もとの石の鳥居《とりい》の所《ところ》まできてみると、そこにちゃんとのっていたはずの、たにしのおむこさんの姿《すがた》が見えません。鳥居の台石《だいいし》からころげ落ちたのかとおもって、そこらをきょろきょろ見まわしましたが、それらしいもののかげもかたちも見えません。
もしやからすが、ついくちばしのさきでつばんで、持って行ったのではないか、どうかしてそこらの田のなかへでも、ころがって行ったのであればいいがとおもって、およめさんは田んぼのなかにはいってみました。春さきのことで田のなかは、水がじくじくわき出していて、田の草のなかから、すみれやげんげの花が、顔を出していました。
およめさんはよそ行きのきれいな着物が、どろでよごれるのもわすれて、水田《すいでん》のなかへはいって行きました。そうして、
「つぶ、つぶ、お里へまいらぬか。
つぶ、つぶ、むこどの、どこへ行《い》た、
お彼岸《ひがん》まいりに
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