もなかにはいっていたのは、かぎタバコではありません。それは黒い小鬼でした。そら、よくあるバネじかけのびっくり箱だったのです。
「おいすずの兵隊、すこし目をほかへやれよ。」と、その小鬼《こおに》がいいました。
 でも一本足の兵隊はきこえないふうをしていました。
「よしあしたまで待ってろ」と、小鬼はいいました。
 さて明くる朝になってこどもたちが起きてくると、一本足の兵隊は、窓のうえに立たされました。ところでそれは黒い小鬼のしわざであったか、風が吹きこんで来たためであったか、だしぬけに窓がばたんとあいて、一本足の兵隊は、三階からまっさかさまに下へおちました。どうもこれはひどいめにあうものです。兵隊は、片足をまっすぐに空にむけ、軍帽と銃剣を下にしたまま、敷石《しきいし》のあいだにはさまってしまいました。
 女中と男の子は、すぐとさがしにおりて来ました。けれども、つい足でふんづけるまでにしながらみつけることができませんでした。もし兵隊が大きな声で「ここですよう。」とどなったら、みつけたかも知れなかったのです。けれども兵隊は、軍服の手まえ、大きな声でよんだりなんかしてはみっともないとおもいました
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