かちかち山
楠山正雄
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)いつも畑《はたけ》に出て
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)四、五|日《にち》
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(例)[#ここから4字下げ]
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一
むかし、むかし、あるところに、おじいさんとおばあさんがありました。おじいさんがいつも畑《はたけ》に出て働《はたら》いていますと、裏《うら》の山から一ぴきの古《ふる》だぬきが出てきて、おじいさんがせっかく丹精《たんせい》をしてこしらえた畑《はたけ》のものを荒《あ》らした上に、どんどん石《いし》ころや土《つち》くれをおじいさんのうしろから投《な》げつけました。おじいさんがおこって追《お》っかけますと、すばやく逃《に》げて行ってしまいます。しばらくするとまたやって来《き》て、あいかわらずいたずらをしました。おじいさんも困《こま》りきって、わなをかけておきますと、ある日、たぬきはとうとうそのわなにかかりました。
おじいさんは躍《おど》り上《あ》がって喜《よろこ》びました。
「ああいい気味《きみ》だ。とうとうつかまえてやった。」
こう言《い》って、たぬきの四《よ》つ足《あし》をしばって、うちへかついで帰《かえ》りました。そして天井《てんじょう》のはりにぶら下《さ》げて、おばあさんに、
「逃《に》がさないように番《ばん》をして、晩《ばん》にわたしが帰《かえ》るまでにたぬき汁《じる》をこしらえておいておくれ。」
と言《い》いのこして、また畑《はたけ》へ出ていきました。
たぬきがしばられてぶら下《さ》げられている下で、おばあさんは臼《うす》を出《だ》して、とんとん麦《むぎ》をついていました。そのうち、
「ああくたびれた。」
とおばあさんは言《い》って、汗《あせ》をふきました。するとそのときまで、おとなしくぶら下《さ》がっていたたぬきが、上から声《こえ》をかけました。
「もしもし、おばあさん、くたびれたら少《すこ》しお手伝《てつだ》いをいたしましょう。その代《か》わりこの縄《なわ》をといて下《くだ》さい。」
「どうしてどうして、お前《まえ》なんぞに手伝《てつだ》ってもらえるものか。縄《なわ》をといてやったら、手伝《てつだ》うどころか、すぐ逃《に》げて行《い》ってしまうだろう。」
「いい
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