負《せお》って、先《さき》に立《た》って歩《ある》き出《だ》しました。向《む》こうの山まで行くと、たぬきはふり返《かえ》って、
「うさぎさん、うさぎさん。かち栗《ぐり》をくれないか。」
「ああ、上《あ》げるよ、もう一つ向《む》こうの山まで行ったら。」
 しかたがないので、またたぬきはずんずん先《さき》に立《た》って歩《ある》いていきました。やがてもう一つ向《む》こうの山まで行くと、たぬきはふり返《かえ》って、
「うさぎさん、うさぎさん。かち栗《ぐり》をくれないか。」
「ああ、上《あ》げるけれど、ついでにもう一つ向《む》こうの山まで行っておくれ。こんどはきっと上《あ》げるから。」
 しかたがないので、たぬきはまた先《さき》に立《た》って、こんどは何《なん》でも早《はや》く向《む》こうの山まで行きつこうと思《おも》って、うしろもふり向《む》かずにせっせと歩《ある》いていきました。うさぎはそのひまに、ふところから火打《ひう》ち石《いし》を出《だ》して、「かちかち。」と火をきりました。たぬきはへんに思《おも》って、
「うさぎさん、うさぎさん、かちかちいうのは何《なん》だろう。」
「この山はかちかち山だからさ。」
「ああ、そうか。」
 と言《い》って、たぬきはまた歩《ある》き出《だ》しました。そのうちにうさぎのつけた火が、たぬきの背中《せなか》のしばにうつって、ぼうぼう燃《も》え出《だ》しました。たぬきはまたへんに思《おも》って、
「うさぎさん、うさぎさん、ぼうぼういうのは何《なん》だろう。」
「向《む》こうの山はぼうぼう山だからさ。」
「ああ、そうか。」
 とたぬきが言《い》ううちに、もう火はずんずん背中《せなか》に燃《も》えひろがってしまいました。たぬきは、
「あつい、あつい、助《たす》けてくれ。」
 とさけびながら、夢中《むちゅう》でかけ出《だ》しますと、山風《やまかぜ》がうしろからどっと吹《ふ》きつけて、よけい火が大きくなりました。たぬきはひいひい泣《な》き声《ごえ》を上《あ》げて、苦《くる》しがって、ころげまわって、やっとのことで燃《も》えるしばをふり落《お》として、穴《あな》の中にかけ込《こ》みました。うさぎはわざと大きな声《こえ》で、
「やあ、たいへん。火事《かじ》だ。火事《かじ》だ。」
 と言《い》いながら帰《かえ》っていきました。

     三

 そのあ
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