ますので学校の方はとうとう中途でやめてしまい、幸か不幸か別にその日その日には困らなかったので日がな一日この不思議な世界に浸り切っていたのです。
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だが一方から見れば私は幸福でした、現実のこせこせした問題から隔離されて自由に空を飛び、水に潜って、古い形容詞でいえば千変万化の生活を楽んでいたのです。私の周囲には四季の花が馥郁《ふくいく》と匂う日が続くかと思うと、真夜《しんや》に誰もいないホテルをうろつくこと、又は夢の中での殺人(恐ろしいことにはそれと全く同一のことが新聞紙に報ぜられ、これはその後迷宮入りのようです)などの話がまだまだあるのですが、余り筆を執ったことのない私はもう大部疲れて来ましたので、早く結末、現在私がなぜこんな精神病院なんかに入れられたか、を書くことにします。
その後私はこの素晴らしい世界を私一人が独占していることが罪悪のように思えて来ました、どうか他の人にもこの知られないも一つの世界を知らせてやりたかったのです――恰度そこへ登場したのが親友小田君でした、私がこんな生活をしているので多くいた友人も一人二人と次第に消息を断ってたった一人残ったのが小田君で
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