した、小田君は心から私のことを心配してくれているようで私の顔を見る度に催眠剤だの魔酔薬だの(遂に私は刹那的の眠りを求めて魔酔薬まで使う深みに堕ちていたのです)をやめるように奨めてくれるのでした。けれど今日の私には到底そればかりは出来ませんでした。薬を止めること、それはとりもなおさず私にとって『死』なのです。それで近頃は彼も諦めて私が決して止めないと思ったのか、尋ねて来てくれてもただ黙って私の顔を見詰るばかりでした。しかし今度は反対に私の方が熱心になって、彼にこの素晴らしい世界を知らせたいばかりに薬を奨めるのですが、彼は頑としてそれを容れてくれないのでした。
そういう状態がかなり続いた後私はとうとう決心したのです。非合法な方法を以ても彼にこの素晴らしい世界を知らせてやりたいと――。
それは青く晴れた日でした。小田君が尋ねて来たのです。私はいつになくうきうきした気持を持て余しながら、彼に沸かしたての紅茶を奨めたのです。勿論それには催眠剤が入れてありましたが、彼は私がなんとなく晴れ晴れした顔をしているのを喜びながら、軽くそれを飲んで了いました。
やがて椅子によった彼の返事は段々間のびが
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