して来ました、私はそれを見詰めながら長い夢の世界の魅力を話してから最後に
「さあ、君も僕と一緒に夢の世界へ行こうよ」
そういいますと彼は
「ああ、ああ――」
とただうなずくように頭を振って椅子に埋まって了いました。私は早速ガーゼを持って来て小田君の鼻と口を覆い、クロロフォルムを一滴一滴と垂らしかけたのです。クロロフォルムのある非常によい甘いにお[#「にお」に傍点]いが部屋の中にほんのり拡がりました。
始め二三回彼は頭を振ったようですが、それっきりクロロフォルムの甘いにお[#「にお」に傍点]いをむさぼっているようでした、やがて発揚状態になって顔が少し赤くなって来ましたが私は構わず垂らし続けました。
(小田君はどんな素晴らしい夢を見ることだろう)
そう思うとなんとも例えようのない程嬉しくなって時々こみ上げて来る笑いを怺《こら》えきれず二人きりのガランとした部屋の空気をクックックッと震わしたりしました。そしてもういいかしら、そう思って気のついた時は小田君の鼻を覆ったガーゼはクロロフォルムでぐっしょり濡れていたのでした。
×
暫く私はそばの机に頬杖をついて小田君の様子を
前へ
次へ
全15ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
蘭 郁二郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング