見ていましたが彼はなかなか眼をさまそうとはしません。待ちくたびれた私もいつか机に倚《よ》ったまま夢の中へ吸いこまれて行きました。それは小田君と二人で赤や黄や綺麗なチューリップの花園を駈廻っている夢でした、そんなことでその夜は送ってしまったのです。
翌日小田君の家の人が私のところへゆくと出たきり帰らないと心配して尋ねて来たのですが、小田君はまだぐっすり寝込んで身動きもしないのでした。すこし変だというので小田君の弟がゆり起したのですが、それきり眼をさまさないのです。医者が来ましたが、その医者のいうのでは小田君は催眠剤の中毒で死んだというのです。死んだと。
私には信じられませんでした。小田君が死ぬなんてことは考えられないことでした。ゆうべだって元気に花園(どこだったか忘れたが)を駈廻っていたじゃないか、きっと小田君はいい夢を、面白い夢を見ているので起きようとしないのだ。――そうより外に私には考えられませんでした。
小田君はきっと面白い夢をみているのです。私に知らせないなんてずるいぞ、そう思うと私は嬉しくて嬉しくてしようがないのでした。小田君だけが私の夢の世界を知ってくれたのだ、愉快じゃ
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