ないか、私は跳び廻って思うさま笑って笑って笑い抜きました。

 そこでふい[#「ふい」に傍点]と記憶がきれて、気がつくとこの精神病院の赤茶けた畳の上にいるのでした。そうしてもう二週間にもなったでしょう。到頭人々は私を気違いにしてしまったのです。誰が気なんか違うものですか、小田君だって決して死んではいないのです。もう少し前まで私とどこかの喫茶店で詩の話をしていたじゃありませんか、きっと、もうすぐ「やあ、どうした」と尋ねて来るに違いありません。
 私は時々来る冷たい顔をした医者にこの話を熱心にするのですが彼等はてんで聞いてもくれないのです。私はこの素晴らしい世界を誰も知ってくれないのが淋しくてたまらないのです。
[#地付き](『秋田魁新報』夕刊、昭和七年六月三、四、七〜九日)



底本:「火星の魔術師」国書刊行会
   1993(平成5)年7月20日初版第1刷発行
底本の親本:「夢鬼」古今荘
   1936(昭和11)年発行
初出:「秋田魁新報夕刊」
   1932(昭和7)年6月3、4、7〜9日
入力:門田裕志
校正:川山隆
2006年12月30日作成
青空文庫作成ファイル:
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