の中でも薄いながら色彩を感じて来たのです。そしてその色彩は次第に濃く遂《つい》には普通の色と少しも変りがわからなくなって来たのです。恐ろしいことです、私は寝ても覚《さ》めてもいつも同じ景色を眺めて暮しているのです。その結果いよいよ夢と現実とが二重写しのようにどちらともつかずになって来たのです。今窓外には蒼白い百合の花が頭を重たげに咲いていますが、可怪《おか》しなことにはその背景に桜が繚爛《りょうらん》と咲き、仮装の人たちがきびすを接して往来しているのです――私はそれを窓にもた[#「もた」に傍点]れて、さも当りまえのように平気で眺めているのでした。
その他いろいろなちぐはぐな出来事があとからあとから起りました。或る日私は上野公園を、とうに死んだ筈の友人と歩きながら葉桜の感触を批評し合いました、その時どうしたはずみか桜の樹にいた毛虫が落ちて私の襟元《えりもと》にさわり、はっとした途端に私は書斎に還《かえ》されましたが不思議なことには今時分いる筈のない毛虫に、刺されたとしか思えない(診て貰った医者もそういいました)赤いはれ[#「はれ」に傍点]が襟元に残っていたのでした。
こんな状態が続き
前へ
次へ
全15ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
蘭 郁二郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング