見ているのですがただ悲しいかなそれは私だけにしか見ることが出来ないのでした。
私には今夢と現実との境界がぼんやりして来たことを申しました。それについて、なおそれを助ける恐ろしい出来事が起ったのです。
その頃から、私は、つぎつぎと訪れる夢のために殆んど寝ることが出来なかったので、とうとう催眠剤を使用するようになったのでした。なる程催眠剤は私を浅いけれど眠りに堕《おと》してくれました。けれどそれもほんの僅かの間でしかも不規則な眠りは却て恐ろしい夢を齎《もたら》すに過ぎないのでした。私はそれらから脱《のが》れるために服量を加速度に増して行かなければならなかったのです。
その結果――余談ですが、貴方も定めし多くの夢を御覧になったことと思いますが夢には色彩がないということお気付きでしょうか。夢には色彩がないのです。けれど『音』は存在します。たとえば夢の中で知人との会話は少しの澱《よど》みも不思議もないでしょう、しかし色彩はない筈です、恰度映画のように黒と白だけの世界なのです。端的にいえばわれわれは夢の世界では典型的『色盲』なのです――それが、私は催眠剤という悪魔に囚われてからはいつとなく夢
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