のがれるためにどんなにあせったことでしょう、しかしそのじりじりと迫る怪しい魔者から抜け出すことは出来ませんでした。いやそれどころか却て前よりも尚々現実との境界があやしくなって行くのでした。私は非常な不安になやみました、朝、眼をさましても、果して自分が本当に眼をさますことが出来たのか、それともまだ夢の続きを見ているのか、そんな簡単な下らないことにも私は喘《あえ》ぐように考えなければならないのでした。
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 学校へ行って講義に出ても、眼の前の横文字はいつか縞《しま》にかす[#「かす」に傍点]んで微妙な音楽が響き、青空は眼の玉を吸い込むようにどこまでも澄みきっていて、こっそり湧いて来た貪婪《どんらん》な雲の影は音もなく地上を舐《な》め廻しています。その中で一人のちんちくりんな男が、音楽に合せて一人よがりな唄を歌っています。それをぼんやり聞き惚《ほれ》ているうちに又いつかそれが教壇に立った教師に変っているのです。それは決して昼寝の夢ではありません、もしその途中で話かけるものがあるなら、私は確実に答えているのです。ふだんの私の知らないことまで、流暢に答えているのです。私は夢を現実に
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