らしく思いついたもんだ』
 と、聴えぬように呟《つぶや》いたが、それ以外、このハッキリした解答に、異論を挟む余地がなかった。
『どんな方法で、何を与えたか、それは犯人に訊くのが一番近道だろうね』
 博士はそういうと、にこにこと事もなげに笑っていた。
 鷺太郎は、その厚い金縁《きんぶち》眼鏡の輝きを、いつになく光々《こうごう》しく感じながら、自分の「直感」を証明してくれた畔柳博士を仰ぎ見た。
『じゃ警察へ電話しましょうか――』
 鷺太郎が腰を浮かすと、
『まち給え――』
 春生が止めた。
『まち給え、も一つ、こんどの事件を話してくれたまえ、同一人の犯行と思われる今夜の事件に、その山鹿が無関係となったら、或は前の事件も彼ではなかったかも知れないじゃないか。周章《あわて》て訴える必要はないよ』
『いや、今夜の事件も、山鹿に違いない。僕は慥《たしか》に彼奴《やつ》を見たんだ』
『ふーん、じゃそれを警察に隠したのかい」
『隠した、という訳ではないけど、一寸、不審な点があるんでね』
『そら見給え、どんなことだ』
『いや、僕があの山鹿の家まで行くと、その門の中から二人連れが出て来たんだ。暗かったんで
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