細いね、「感じ」だけでは証拠にならんじゃないか』
『そりゃそうさ、――そういう君だって解らんのだろう』
『いや、僕は現場を見ていないからね』
『ずるいぞ、現場を見てたって、それ以上わかるもんか』
『ふん、それは鷺太郎君のいうように山鹿というのが怪しいな……』
婦長に患者の処置を指図しながら、黙って聞ていた畔柳博士が、ごくんとお茶をのみ乍《なが》ら、いった。
『でも、その山鹿という男が、近づく前に、既に死んでいたんじゃないですか』
春生は、不服気に畔柳博士の方を振向いた。
『そうさ、山鹿がそばに行った時は、死んでいたんだよ。その娘は毒殺されたんだ、とは考えられないかい。――その事件が起る前に、山鹿がその娘にある方法で、例えば口紅に毒を塗っておくとか、泳いでいるそばに行って、あやまって水吹《しぶき》をかけたようにして毒を含ませてもいい、兎に角、毒を与えたんだ。そうすれば、その娘は気持が悪くなって、砂に寝て、それっきりになるのは当然だ』
『じゃ、なぜまんまと殺したのに、尚も匕首なんかを使ったんですか――、どういう風に使ったんですか』
春生は尚も、訊きかけた。
『それは、一見不可能のよう
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