そ》めた鷺太郎の目に、白の半ズボンに白のシャツの男と、も一人、矢張《やは》り白地に大胆な赤線を配したズボンを穿《は》いた断髪の女とが、ひょっこり現れた。あたりは暗かったけれど、その二人の服装が白っぽかったので、鷺太郎にはその輪廓《りんかく》を読みとることが出来、一人はたしか山鹿だ、と断定はしたが、も一人の女性の方は、山鹿と交際していないので誰だったか解ろう筈《はず》もなかった。
 二人は、この身を密めて窺《うかが》っている鷺太郎には気づかなかったらしく、肩を並べて歩きだした。そして、Y海岸への散歩であろうと思っていた彼の予想を裏切って、こんな時間に、もう人通りもないであろうと思われるZ海岸の方へ向って、ぶらぶらと歩いて行った。
 鷺太郎は、一寸|躊躇《ためら》ったが、すぐ思いなおして、そのあとを気づかれないように追《つ》いて行った。別にこれ[#「これ」に傍点]という意味はなかったのだけれど、恰度《ちょうど》その方向が、帰り路《みち》になっていたせいもあり、又、彼の「閑《ひま》」がそうさせたのだ。
 山鹿と、そのモダーンな女とは、一度も振りかえりもせず、時々ぶつかり合うほど肩を寄せ(彼との間は相当あったのだが、なにしろ、その二人が、夜目に浮出す白服だったので)何か熱心に話し合いながら、真暗な夜道を、淋しい方へと撰《よ》るように、進んで行った。その路は、そう思わせるほど、暗く淋しかったのだ。この夏の歓楽境《かんらくきょう》K――に、こんな寂《じゃく》とした死んだようなところがあるのか、と思われるほど……、いや、Y海岸が桁《けた》はずれに賑《にぎ》やかな反動として、余計こちらが淋しく感じられるのかも知れないが――。
 そんなことを鷺太郎は考え乍《なが》ら、それでも生垣を舐めるように身を密ませながら追いて行くうち、いつか住宅地も杜絶《とだ》えて、崖の上に出た。そこは、背に西行寺《さいぎょうじ》の裏山が、切立ったような崖になって迫り、わずか一|間《けん》たらずの路をつくると、すぐ又前は二間ばかりのだらだらした草叢《くさむら》をもった崖になって、眼《め》の下の渚に続いていた。つまり、その路は、崖の中腹を削ってつくられた小径《こみち》であった。
 其処《そこ》へ立つと、海面《うなも》から吹渡る潮風が、まともにあたって、真夏の夜だというのに、ウソ寒くさえ感じられた。
 遥か左方《さ
前へ 次へ
全31ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
蘭 郁二郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング