『やあ――』
私も、すらすらと返事をして、こっくり頭を下げた。だがその次の言葉が、私を驚かせた。
『失礼ですが、あなたはツベルクローゼじゃありませんか』
私は、
『え』
と詰って、
『まさか、――私が肺病に見えますか』
と、聊《いさ》さか憤然《むっ》として答えた。
『や、そうですか、失礼失礼……。どうも今頃、あなたのような青年が、こんな淋しい海岸に来てぶらぶらしていると、どうもそんな気がしましてね……、若《も》しそうだったら私の経験したいい方法をお知らせしようと思ったもんですから……』
その男は、ひどく恐縮したようにいった。
『肺病じゃないですが、でも、胸のやまいですよ、女という病菌の……』
と、冗談にまぎらして、私は彼を恐縮から救った。それはその男の持つ、何処《どこ》となく異状な雰囲気に、疾《と》うから好奇心を持っていたからであったろうし、又、話し相手を欲しいと思っていた気持が、つい、そういわせたのかも知れない。
『おやおや、そりゃ顕微鏡じゃなくて、望遠鏡を持って来たいような病菌ですね。その病菌は色々な症状を呈しますよ、発熱したり衰弱したり、遂には命をとられたりするのもね
前へ
次へ
全38ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
蘭 郁二郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング