は眉《まゆ》をひそめて、花子という女からだな、と思いながら、
『そんなら早く癒《なお》さなけりゃいかんでしょう、医科を卒《で》られたんだから、自分で静脈注射も出来ませんか……』
『いや、もう病気を癒そうなんて気力は、疾《と》うになくなってしまった僕ですよ。未だにそれだけの気力を持っているほどなら、一《い》ッそネネを殺ってしまっていたでしょう、ふッふふふ……ネネは僕に何一つ思い出を遺《のこ》してはくれなかったんですが、こんどの女は、こんなに消えぬ思い出を与えてくれたんです、久劫《くごう》に消えぬ、子孫にまで遺ろうという、激しい恋の思い出の華を……』
私はこの狂気《きちがい》染みた彼の言葉に、返事を忘れてしまった。
(春日は、頭を冒されたのではないか――)
×
早々に引上げた私は、その帰り道、あの崖の細路《ほそみち》の中ほどで、一人の女と行き違った。この路の果てには春日の家しかないのだから、その女が私の興味を惹《ひ》いた花子であることは疑いもないことであったけれど、その女は、余りにも、私の想像とはかけ違ったものであった。
真ッ昼間だというのに、黄色のドーラン化粧に、青のア
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