』と同じなんじゃ。同じというより、これはその下絵か、又は特に頼まれての縮図じゃろうかね――いや、年代からいって、壁画を描いたあとで頼まれたものらしいナ」
「ほう、よくそんな細かい年代がわかりますね」
「わかるともさ――」
鷲尾老人は、いかにも得意満面といった様子で
「なにしろ、ちゃんと日附がついとるからの、この日附がついとるからこそわし[#「わし」に傍点]が大切にしとったのじゃよ、わし[#「わし」に傍点]はすべて数字ほど信頼出来るものはない、と信じておる。一たす一は二。これは大人でも子供でも同じことじゃ、ここらが数字のありがた味《み》、とでもいうかナ、はッははは、こんなことからもわし[#「わし」に傍点]には数学的な電気が性に合うらしいのじゃ。それで最も非数学的なもの、つまり恋愛というものを、じゃね、電気学的に闡明《せんめい》しようというのが、わし[#「わし」に傍点]の念願じゃ……、そのためには、この画も手離さなけりゃならん……」
老人は、そういいながら、その画を裏がえして、埃っぽいカンヴァスを指さしながら、
「どうじゃ、ちゃんと書いてあるじゃろう……、一五八二年一月十日とな」
成
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