えたのである。
最後の審判
「はッははは、だいぶ驚いたようじゃね、無理もない、突然君にこんなことまでいってもとても飲込めんじゃろうからネ……しかしまあわし[#「わし」に傍点]の仕事がぼんやりでもわかってくれたら手伝ってくれたまえよ。わしがあんなバー・オパールなんぞを開いて、客を待っていたのも、結局君のような好青年を見つけたかったからなのじゃ、……しかし認可をとって大っぴらに開業したわけでもなし、そうすれば自然わし[#「わし」に傍点]も五月蝿《うるさ》い世の中に顔を出さんけりゃならん、そればかりか、この研究室が人に知られたひ[#「ひ」に傍点]にゃ一大事じゃからねえ、それで、あんな小さな看板をこっそり出して見たんじゃよ。だが、早速に君のような、一眼で左きき[#「きき」に傍点]を見わけるような観察力の鋭い青年を得て、わし[#「わし」に傍点]は大満足じゃ、是非木美子と共に手伝ってくれたまえ……わし[#「わし」に傍点]の研究ももう一歩のところじゃ。しかし、矢張り何やかやと入費があっての――」
私は一瞬、さては――と思った。そしてこの不気味な下水道の中の研究室に連れて来られたのは、矢張り金のことがあったのか、と思いあたった。が、鷲尾老人は又笑って
「はッははは、いや、そう変な顔をしないでくれたまえ、金がかかるといってもこの鷲尾は、絶対に人の世話になろうとは思わんよ。僅かな私財は全部研究費に注ぎ込んで、今はたった一つしか残っておらんが、しかし素晴らしい名画をもっておるからの、これだけ手離せば、わし[#「わし」に傍点]の研究の完成まで位、悠々と支えられる筈じゃ」
「なんです、その名画というのは――」
私は、どうも鷲尾老人のいうような、電気の方は苦手であったけれど、画の方ならば、少しはいいように思われた。
「ミケランジェロじゃがね」
「え?」
「ミケランジェロじゃよ――。そうじゃな、君はいきなりこの研究室で手伝って貰うより先ずこの画を売るのを心配して貰うとするかな……、ともかく一つ、まあ見てくれたまえ」
老人は、研究室を出ると、又先きに立って危っかしい階段を上りバー・オパールへ戻って来た。
オパールに来ると、木美子が独りぽつんと何か考えごとをしていたらしかったが、老人の姿を見ると、びっくりしたように掛けていた椅子から立った。
「おお、木美子、あのミケランジェロを
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