薄く口を開けたまま、森源の方を見かえした。
その、紅い唇の間から、ガラスの反射を受けた皓歯が、きらりと光った。
「うん、友達だよ」
森源は、何か弁解するように、そういうと
「ルミです……」
それっきり妻とも妹ともいわなかった。
「遠藤です、よろしく……」
と腰をあげていいながらも、私は、はげしい興味を覚えて来た。
彼女は何か二こと三こと、森源の耳に囁くと、又温室を出て行ってしまったけれど、その、焼きつくような印象的な姿体は、しばらく私の網膜から消えようともしなかった。
「実に美しいですね……鄙《ひな》には稀れ、というけれど、勿論この土地の人でもなかろうし、都会でも稀れですね」
森源は、嬉しそうに、又小鼻に皺を寄せ、
「いや、田舎者ですよ、ただ僕の、いわば趣味であんな恰好をさせているんですよ」
「ほほお、驚きましたね、そんな芸当もするんですか、私はまたただの変人――」
といいかけて、あわててあとを呑んでしまったけれど、森源は、苦笑して、
「あなたも聞かされて来ましたか、変人というのは交際ぎらいの僕には、いい肩書ですよ――」
森源は、自分で自分を変人にしているのだ。成るほど
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