ている、というんですから――」
彼は、小鼻に皺を寄せて笑うと、
「……まだ、発表するなどというところまでは行っていませんね。一つのデータとはいえるかも知れないが、時機尚早、というところでしょう。勿論アンテナと地中線ばかりではないので、それに附属した装置が、まだ未完成だ、というんですよ」
「成程、それで、まだ発表出来ない、というんですね――」
私は、これについては、もう追求しても無駄なことがわかったので、何かほかに話題を見つけようと、眼をあげた。
すると、丁度その時、温室のドアを排して、一人の女性が這入って来た。
途端に、この温室に、パッと花が咲いたように幻覚したほど、美しい女性であった。
あたりが南国的な雰囲気にあったせいか、その美少女の色鮮やかな原色の紅と黄と青との大胆な洋装が、いかにもしっくりと合って、銀座などで相当行き交う美少女には見馴れていた筈の私が、はあっと眼を見張った位であった。断髪であった、それが又美しかった。濡れたような瞳であった、それが亦美しかった。
先方でも、思いがけぬ私のいることに、よほどそばへ来てから、あっといったように立止って何か言葉を待つように、
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