めて見ると、
「身一つ、世一つ、生くに無意味、曰くなく御文や読む……」
と、なるではないか。
それは、何かしら、思いあたるような『意味』を持っているではないか――。
×
私は雲のように、湧き上る不安を感じつつ、二度と行くまい、と決めていた森源の家にいそいだ。
温室にも、森源の姿は見えなかった。自動開閉ドアは、ぴったりと閉されていたが、私は、躊躇なく窓ガラスを破って、這入って見た。――私の、不吉な予想はあたっていた。
その部屋の中には、ルミが、一撃の下に、打ち毀されていたのだ。
赤い血はなかった。しかし、玩具箱を、ひっくり返したように、彼女の臓腑が四散していた。哀れな森源! しかし、森源の姿は其処になかった。
半生の希望と結晶を、一撃の下に粉砕しなければならなかった彼の、悲惨な姿を、私は長いことうろうろと探し求めた。
はからずも、同じ脳波を持った男の出現で、たとえ僅かな間とはいえ、ルミを奪われた森源は既に、「生くに無意味」を実行したのではなかろうか――。
探しつかれた私が、無意識な一服を点けながら、最後の温室に重い足を引ずって這入った時名も知らぬ熱帯の珍花が
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