を前に、私は、この字に関連するようなものを、一つ一つ思い浮べてみた。
然し、落着くところは、矢張り『円周率』であった。πなどという字は、円周率を表わす時以外に、一向使った憶えがないのであった。それにしても『円周率』とは、何を意味しているのであろう、3.14 ……という無理数であるπは、何《ど》んな意志表示なのであろう。
無理――という言葉に、何か意味をもたせたのかも知れぬ、とは思ったが、結局、そうでもなさそうである。
私は、仕方なしに、東京から、数日を費して、円周率に関する書籍を取り寄せて見た。
然し、矢張り隠されたような意味を、発見することは出来なかった。
3. 1 4 1 5 9 2 6 5 3 5 8 9 7 9 3 2 3 8 4 6 ……と書かれた数字の行列を眺めながら、私は、腕を拱いてしまったのである。
と、その数字を拾いよみして行くうちに、口の中で読み上げられた音は、妙な、歌をなしているようであった。はっとした私は、もう一度、気をつけて読みなおして見た。
すると、それは、
「みひとつよひとついくにむいみいわくなくみふみやよむ……」となって、強いて漢字をあては
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