けぬ白いものを見、森源は、すでに、そんな齢なのであるか、と気づき、その落ちた肩をそっと抱いてやりたいような気もしたのであった。
×
森源は、やがて、ルミを抱えて去った。
私はわざとそれを送ろうとはせず、二階の手すりから、科学者森源が、それこそ半生の精魂を罩めて産んだルミを、半ば引ずるようにして去って行く後姿を、泪ぐましい気持で見詰めていたのであった。
森源にとっては、実子にも増す、かけがえのないルミが、路傍の人であった私の為に、科学の常識を無視して、彼を棄ててしまったのである。彼の悲痛さは、私にも充分想像することが出来た。それだけに、尚さら、森源の重たげな足どりが、よろめくように私の視界を去っても、私の暗然たる気持は、長く拭い去ることが出来なかった。
――その夜、私はここへ来ては唯一の慰安であるラジオを聞こうとして、ダイヤルを廻しながら、不図、愕然として思いあたることがあった。
というのは、ルミの意志――についてである。あれは、ルミの意志ではないのだ、私の意志なのである。
森源は、脳波操縦ということをいっていた。私はラジオをいじり乍ら、その脳波と電波というものを
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