「あたしおまえが好きなの、好きなの、好きなの」といった言葉で、実に奇妙な響きであったけれど、その変な響きというのは、丁度レコードの同じ溝の上を、針が何回も廻っている時のような、不自然な繰返しとそっくりであった。――恐らく、彼女の愛の言葉は、これ以外に記録されていないのであろう、彼女の懸命な発音は、その記録の上を、必死に反復繰返したのに相違ない――。私は、慄然としたものを感じて来た。
世にも奇怪な、人造人間との恋愛という、未だ曾て聞いたこともない事実を、私は身をもって演じていたのである。
それにしても、どう考えても私に呑込めぬのは、ルミの有する感情――意志であった。如何に精巧な電気人間であるかはしらないけれど、それがすでに自己の意志を持つということは、とても、森源の科学でも説明することは出来ぬのではないか、と思われた。
(森源は、それを、どう説明するのであろう――)私は無言で、足もとの彼女を見詰めていた。
彼も、無言であった。既に、必要な言葉全部を吐出してしまった人間のように、ただ茫然と、しどけなく床に伸びたルミを、見下しているのであった。
その横顔、小鬢のあたりに、私は、思いが
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