い、或はただの、寧ろ狂人に近い変人なのだともいうけれど、いずれにしても、村人とは絶えて交際しない『変り者』であるということだけは一致していた。
 その、森源の家は私の借りていた家から四五丁はなれた、低い谷間《たにあい》にあって、この辺では珍らしい洋式を取り入れた建て方のものであった。そこに行くまでには、自然の温泉を利用した温室が幾棟か並んでい、その温室の中には、蔓《つる》もたわわに、マスクメロンが行儀よくぶら下っているのが眺められた。
 これは森源が考案したものだそうだけれど、今ではこの村のあちこちに、これを真似た自然温室が出来ていて、有力な副業になっているそうである。この点、森源は相当感謝されてもいい筈なのだが、しかし村人は彼に『変り者』という肩書をつけて、強いて交際しようとはしない――
 私が、最初に森源に逢ったのは、散歩の途中、その温室でであった。
 森源はカーキ色の仕事服を着て、せっせとマスクメロンを藁で作った小さい蒲団にのせ、それを支柱に吊り下げているところであった。私も、若しもこの男が人々のいう『変り者』ということを聞いていなかったならば、別に話しかけもしなかったであろうが
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