蒼いものであるか、と半ばあきれてしまった位であり、其処に飛ぶ、純潔な綿雲に、健康な幻想を覚えるからであった。
 だが、そうして病気の方がよくなって来るにつれて、今度は、思いがけなかった、激しい無聊に襲われて来た。あたりはまるで太陽からの光線が、一つ一つ地面に泌入る音が聴えるほどの、俄つんぼのように静まりかえった眺めであるし、吹く風すらも私の耳に柔かいのだ。自分自身を持てあました私は、許すかぎりの時間を散歩にまぎらわし、なおその上、話し相手ほしさに、飢えて居たのであった。
 その頃だ、奇人、森源を知ったのは――。いささか前置きが長すぎたようであるが、その頃の私の退屈を知って置いて頂かないと、当時、誰一人として相手にしなかった森源と知り合いになったということが、どうも不自然のように思われはしまいかと惧《おそ》れるからである。
 森源――というのは綽名で、実は森田源一郎というレッキとした名があるのだが、村人は誰も森源、森源、といっていたし、なんだかその方が彼の風貌をしっくりと表現するような気がし、私も口馴れたその名を呼ぶことにする。
 奇人森源についての、村人の噂は、或は隠れた大学者だともい
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