舎道だとはいえ(或は人通りの尠い田舎道だったから余計に)不意を打たれたルミの大胆さに狼狽しながら、
「ま、ここでは――さあさあ」
と家に、引ずるようにして連れて来た。
その時、靠れかかったルミを、全身に受けながら、私は、奇妙な触感に一寸ばかり訝かしく思いながらも、兎も角家へ帰って、椅子にかけさせ、
「よく、来てくれましたね」
やっと、ほっとしながらいった。
「…………」
無言であげた彼女の顔は、何か非常な精神の混乱を示している泣き顔なのであった。それなのに、泪は一滴も出ていなかった。泪のない、真面《まとも》に見上げた泣き顔というのは、ひどく荒涼としたものであった。
「どうしました。水でも持って来ましょうか」
さっぱり様子の呑込めぬ私は(森源と、喧嘩でもして来たのであろうか)と思いながら、ぽかんと突立っていた。
ルミは、激しくかぶりを振ると、
「あたし、おまえが好きなの、好きなの、好きなの……」
そういって、キともクともつかぬ、母音のない奇妙な叫びをあげ、椅子から立上って、手を伸して来た。
私は、思わず二三歩たじろいで、
「ど、どうしたんですルミさん?」
気を確かに、し
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