眼くばせをし、玄関の自動開閉ドアのところまで送って来た。
「ああ、そうそう、こんど伺ったら、一度あなたの研究室を見せて頂きたいと思っていますよ」
「そうですね、なアにたいした設備もないけれど、そのうち見て下さい」
 なぜか、森源は、淋しそうに相槌を打って私を送り出した。

   脳波操縦

 その翌日だった。
 午後にでもなったら、又森源のところでも行ってみようか、と思いながら、ぼんやり二階の手すりに手をもたせて、澄み切った奥伊豆の蒼空を眺めていると、ふと視界のはしに、華やかなものを感じ、眼を凝らしてみると、どうやらルミが、それも私の家の方に向って、飄々と歩いて来るのであった。モダン娘ルミの歩きっぷりを、飄々などと形容するのは妙なようだけれど、事実その姿は、まるで風に送られて来るかのように、変に緩漫な、それでいて、一刻も早く此処へ着こうとする激しい気力を感ずるような足取りなのであった。
 私は、すぐに二階から駈下りた。そして、庭下駄を突かけ、道の中途までルミを出迎えた。
「まあ――」
 彼女は、そういうと、頬を、はげしく痙攣させて、倒れかかるように、私の胸に靠《もた》れたのだ。私は、田
前へ 次へ
全32ページ中19ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
蘭 郁二郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング