部屋の中に突立ち、うつろな、視線のない眼をあげて、私を見ていた。いや私ではないかも知れない、だがそんなことは構わないではないか。
 私は、森源が、少し離れた温室の中にいるのを知っていながら、わざとそっちを向かないで、真直ぐに家の方に行き、彼女に聞えるように、
「ご免下さい、ご免下さい――」
 と呼んだ。そしてドアを押した。
 同時に、おやっ、と気づいたのは、この前森源と一緒に来た時は、声もかけず、ドアを押しもしなかったのに、自然に開いた筈であったドアが、相当力強く押して見たのに今日はびくともしないのであった。
 而も、充分聞えた筈なのに、ルミは、身動き一つしたような気配もない。私は聊かがっかりして、帰ろうか、と思った時だ。
 いつの間にか、後に来ていた森源に、ぽんと肩を叩かれてしまったのだ。
「やあ、この間は失敬、ま、這入って下さい、まあまあ――」
 そういわれて、もう一度振りかえると、ドアは、ちゃんと大きな口をあけている。
 私は小馬鹿にされたような気もしたけれど、今更帰るわけにもゆかず、森源の後に続いて行った。
「いらっしゃいませ――」
 その声! 歌に乗るような美しい声で、私を迎
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