一つの元素と見なしている超大世界があるのかも知れない。逆に、この我々の超顕微鏡下にある原子の、その周りを廻っている電子の一つに、我々と同じような生活を営んでいる『人間』がい、木があり、川があり地球と称しているかも知れない――要するに、大きさという絶対でないものの悪戯なのさ――」
 私は、なまじ相槌をうったばかりに森源の話に圧倒されてしまって、どうやら自分の方が頭が変になって来てしまったようだ。
 彼の話なかばから、なるほど、少し変り者のようだ、とは思ったのだけれど、実をいうと私はあのルミという温室で見かけた美少女のことが、どうも頭を去らず、又此処に来はしまいかと、そればかりを心まちにしていたのだが、遂にその姿を重ねて見ることは出来なかった。私は、森源の話が一段落ついたのを幸い、這《ほ》う這《ほ》うの態で、引上げて来た。

   美少女ルミ

 私が、再び森源の家を訪ねたことについては、前にいったように、ひどく退屈であったせいは勿論なのだが、然し、二三日して散歩の途中、森源の家のそばを通った時に窓越しにルミの姿を認めたからであることも否めないことだ。その時の彼女は、気のせいか、ただ茫然と
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