まで行った時には、つまり月へもう六分の一だ、という所で、両方の引力が零になるわけで、宙ぶらりんになってしまうことはないですかね。寧ろ、その点に太陽か、さもなくば他の星の引力が働いているとしたら、折角、月に向って行ったのに、とんでもない宇宙旅行がはじまってしまうんじゃないですかね」
「そんなことはないさ。地球から月へ向って行く慣性の方が大きいだろうから、月へ寧ろ激突するだろう――そんなことの興味よりも、僕は『大きさ』というものの方が、もっともっと深刻な興味があると思うね。大体ものの『大きさ』というのがすべて相対的のもので、絶対的ではないんだからね。人間が『仮り』に定めた尺度でもって、それと相対して僕が五尺三寸あるとか、あの木は四米の高さだとか、このタバコ盆は厚みが四分の一|吋《インチ》だとか、そう唱えているに過ぎないのだからね。例えば太陽の周りを地球や火星が廻っている、それは原子の周りをいくつかの電子が廻っているのとソックリ同じじゃないか。ただ大きさが違うというが、それならば、その大きさとは何か、となると、一体なんといったらいいのかね。――こう考えると、この太陽系を包含する宇宙も、それを
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